| 1969年、東京大学医学部卒。東大病院整形外科、都立府中病院整形外科、都立多摩老人医療センター(現・東京都医療保健公社 多摩北部医療センター)リハビリテーション科、2001年4月より日中友好会館クリニック所長を歴任。専門のリウマチ外科など、整形外科診療の傍ら、早くから漢方薬の有用性に注目。整形外科疾患のみならず、内科、皮膚科、心療内科、婦人科など、各領域の漢方治療が得意とする疾患を研究し、臨床に応用。(財)日本漢方医学研究所常務理事、日本東洋医学会常務理事を歴任。 |

いくつになっても健やかな毎日を送りたいものですが、私たちは加齢とともにさまざまな老化現象が現れてきます。なかでも、ひざや腰、肩などの関節に痛みが生じてくると、日常生活に支障を来たします。
鎮痛剤を服用したり、ひざにたまった水を抜いたりしても、西洋医学では痛みを解消することはなかなか難しいのが現状です。特に、痛みが慢性化すると治らない場合が多いようです。
一方、このようなやっかいな痛みに対しては、漢方薬が有効です。漢方は、患者さんの自覚症状を中心に、脈をとったり、顔色を見たり、皮膚をさわるなどして診断していきます。
その診断の一つに、「気・血・水(き・けつ・すい)」があります。これを簡単に説明すると、気は生命エネルギー、血は臓器に栄養を与える血液、水は水分や体液を示します。漢方では、この三つがスムーズに体を循環することで、健康が維持されると考えられています。
気・血・水の中でも、特に痛みに深くかかわっているのが水の流れです。水分や体液が滞った状態を「水毒(すいどく)」といい、関節に水がたまったり、むくみが生じたり、関節がこわばったりするのは、この水毒の現れです。
こうした水毒の状態を解消するには、水の流れをスムーズにする利水作用のある生薬(漢方薬の原材料)が用いられています。その代表的な漢方薬が麻杏薏甘湯(まきょうよくかんとう)です。
三世紀初頭に成立したとされている中国漢方の古典『金匱要略(きんきようりゃく)』にも載っており、筋肉や関節の痛みに効くと記されています。この漢方薬は、麻黄(まおう)、杏仁(きょうにん)、薏苡仁(よくいにん)、甘草(かんぞう)の四つの生薬で構成されています。
麻黄には抗炎症作用、杏仁には麻黄を助けて水毒を追いやる作用があります。また、薏苡仁には鎮痛作用、甘草には消炎作用があります。

この二〇〇〇年にわたる漢方の経験と知恵を現代に生かし、現在、関節の痛みなどに用いられているのが痛散湯(つうさんとう)です。この漢方薬は、麻杏薏甘湯に用いられている四つの生薬に、利水作用のある防已(ぼうい)を加えたものです。
西洋薬の痛み止めは、一時的に痛みを緩和するもので、胃腸障害や発疹など副作用が多く見られます。漢方薬も副作用が皆無とはいえませんが、西洋薬に比べればずっとマイルドです。急性の痛みに対しては西洋薬が効きますが、なかなか改善しない慢性の痛みには痛散湯(つうさんとう)を試してみるといいでしょう。局所療法の西洋薬と違い、痛散湯(つうさんとう)などの漢方薬は体全体に作用し、気・血・水の流れを改善して体質改善を図っていきます。
痛散湯(つうさんとう)は、変形性ひざ関節症や坐骨神経痛などの慢性症状や、四十肩や五十肩などの肩関節周囲炎に、大変効果的だと考えられます。
人によって、効果はさまざまですが、根気よく毎日続けて飲むことが大切です。痛みがあると体を動かすのがつらくなりますが、無理のない範囲で体を動かして、筋力の低下を防いでください。また、水毒に冷えは禁物。体を冷やさないよう心がけましょう。






